インド学仏教学における LyX の利用

はじめに

LyX を使ってみたが、大変素晴らしい。LyX はバックエンドに LaTeX を使用しているが、表上は LaTeX の構文を意識する必要がない。視覚的に書く内容だけに集中できるので、よりスムーズに文書を作成することができ、LaTeX にある程度習熟したユーザーであっても、その恩恵に浴するところは大きい。ここでは、LyX を利用してインド学仏教学の論文を作成するためのノウハウを書いて見ることにする。といっても、私自身もつい数日前に LyX を使用しはじめたばかりなので、設定や操作方法は手探り状態である。自分用のメモも兼ねてここにいくらか残しておこうと思う。

導入と基本設定

LyX や LaTeX そのものの導入・基本設定についてはここでは触れないことにする。以下のサイトに詳しい解説があるのでそちらを参照すれば概ね迷うことはないだろうと思う。

とりわけ以下では UTF-8 での処理を前提にするので Japanese (non-CJK) (UTF-8) の追加 を忘れないように行なっておく。

LyX のバックエンドに XeTeX や LuaTeX を使用すれば、システムフォントを直接指定出来るようになり、デーヴァナーガリー文字やチベット文字なども直接入力し、PDF 出力結果を得ることができるようになる。しかし現在のところ、インド学仏教学の論文では、ラテン文字転写された文字が使用されることの方がより一般的であるから、ここでは、まずは特殊文字を含むラテン文字転写されたサンスクリット語やチベット語混在文書の編集方法について触れたい。

特殊文字

周知のように現在 pTeX でも UTF-8 での入力が可能となり、欧米主要言語のアクセント付き文字も日本語と混在で直接記述することができる (cf. UTF-8対応)。しかし、サンスクリット文字転写等に必要なダイアクリティカルマーク付き文字を直接処理できるようにするにはまだ多少工夫が必要である。

LyX の「文書」「設定」「LaTeX プリアンブル」に例えば次のように書いておく。

usepackage[deluxe,multi]{otf}
usepackage[utf8]{inputenc}
input{sktibenc.dfu}
usepackage[T1]{fontenc}
usepackage{txfonts}
% usepackage{extaccent}
% hyperref は「PDF 特性」から設定してもうまくいかない?
usepackage[dvipdfmx,setpagesize=false,%
bookmarks=true,bookmarksnumbered=true,bookmarkstype=toc,%
breaklinks=false,pdfborder={0 0 0},backref=false,colorlinks=true,%
linkcolor=red,citecolor=blue,filecolor=magenta,urlcolor=cyan,%
]{hyperref}
% 日本語しおり文字化け対策
ifnum 42146=euc"A4A2 AtBeginDvi{special{pdf:tounicode EUC-UCS2}}else
AtBeginDvi{special{pdf:tounicode 90ms-RKSJ-UCS2}}fi

ポイントは、

usepackage[utf8]{inputenc}
input{sktibenc.dfu}

の部分で、inputenc パッケージのオプション utf8 で定義されていない文字を sktibenc.dfu で定義してある。以下に置いたので TEXMF tree (kpsewhich -var-value TEXMF 等で返るパス) に配置して利用してみていただきたい。

誤りがあれば訂正していただけると幸いである。TeX ユーザーであれば、その他、普段使用しているパッケージをこの「LaTeX プリアンブル」に適宜追加すればよい1

これでサンスクリット文字転写 (IAST) とチベット文字転写 (ALA-LC) で用いられるダイアクリティカルマーク付きラテン文字に関しては、直接入力してもエラーなく PDF へ出力することができる。なお、キーボードから “ā” “ī” “ū” などの転写に必要な Unicode の文字を入力するには、一例をあげれば、Mac OS X であれば EasyUnicode を、Windows であれば Gandhari Unicode Keyboard を、Linux であれば ibus や scim で m17n database (sa_input_table) を利用することでそれぞれ可能となる。

# 左が LyX 編集画面。右が PDF 出力結果。

lyx_sktib.png

OTF 変換

齋藤修三郎氏による OTF パッケージ の恩恵をこうむっている LaTeX ユーザーは多いだろう。これによって、フリーソフトウェアにおいては唯一 Adobe-Japan1-6 の全グリフ (23,058 字) の使用が実現された。JIS X 0208 (JIS 第一・第二水準) に含まれない漢字を使用したい場合、LaTeX 原稿には “UTFx” や “CIDx” 等のコントロールシーケンスを用いるが、LyX で TeX の命令を直接入力する場合、「挿入」「TeX コード」を選択する必要がある。例えば LyX で「阿閦」(閦, U+95A6, CID+15256) を出力したければ、原稿には、

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_ashuku.png

と入力する必要がある。我々の分野ではとりわけ JIS X 0208 外の漢字を使用する機会も多いので、この OTF 変換の作業は自動化しておきたい。

そこで、この変換に Utf82TeX を利用する。UTF82TeX の導入や使用法は 本家の説明インド学仏教学における UTF-8 による TeX 文書作成 をご参照いただきたい。この UTF82TeX を LyX で使用するためには、例えば次のような簡単なシェルスクリプト (lyxlatex) を用意しておけばよいだろう。

#!/bin/sh
# LyXLaTeX: Simply compiling with UTF82TeX for LyX
# usage: Set lyxlatex as a command of "LaTeX (pLaTeX) -> DVI"

# valuables
PREFIX="/usr/local"
UTF82TEX="$PREFIX/bin/utf82tex"               # utf82tex path
UOPT="-txgq"                                  # utf82tex option
TEX="$PREFIX/bin/platex"                      # platex path
TOPT="-kanji=utf8 -synctex=1 -src-specials"   # platex option

JOBNAME=`basename $1 .tex`
# utf82tex conversion
$UTF82TEX $UOPT < $JOBNAME.tex > $JOBNAME.utf
# platex compile
$TEX $TOPT $JOBNAME.utf

冒頭の変数を環境に合わせ適宜変更して、パスの通ったところ (/usr/local/bin など) に配置し、実行権を与えておく (sudo chmod +x /usr/local/bin/lyxlatex)。その上で、LyX の「ツール」「設定」「ファイル処理」「変換子」の「LaTeX (pLaTeX) -> DVI」にこの lyxlatex を設定しておく。Linux や Mac OS X であればこのようなシェルスクリプトを指定することができるが、Windows であれば、同種のバッチファイルを作成すればよいだろう2

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_lyxlatex.png

これで JIS X 0208 外の漢字が直接入力された LyX の原稿から「PDF (dvipdfm) を表示」してもエラーなく PDF へ出力される。

# 以下の例では「燄」(U+71c4, CID+16966}) と「說」(U+8aaa, CID+13880) が JIS X 0208 外の漢字。

lyx_otf.png

文献データベースの利用

LyX における BibTeX 文献データベースの利用に関しては、LyX wiki (BibTeX) や LyX からたどれる「ヘルプ」「ユーザーの手引き」「第6章 他のツール, 6.5 参考文献」、同じく「ヘルプ」の「高度な機能篇」「第3章 補完ツール, 3.1 BibTeX による参照文献のカスタマイズ」等が参考になる。ここでは、少し発展的な利用として、Firefox の拡張 Zotero を利用して、Web 上の文献情報を LyX の原稿に引用する方法について触れる (より詳しい手順は LyX の導入と Zotero との連携 を参照)。

まずは Web 上で目的の書誌情報を検索し Zotero を利用して保存しておく。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_amazon.png

先ほど Zotero で保存した文献を LyZ のメニューから LyX へ渡す (ここではデータベース名 lyx-indo.bib でエクスポートした)。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_amazon_2.png

LyX 原稿に文献情報が追加された。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_amazon_3.png

「挿入」「一覧/目次」「BibTeX 書誌情報」で先ほどエクスポートした BibTeX ファイル (lyx-indo.bib) を追加し、希望の「様式」 (例えば chicago.bst) を選択しておく。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_amazon_4.png

「引用様式」や「後置文字列」などを設定し整形する。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/12/wpid-lyx_amazon_5.png

以上の作業を繰り返し、Web 上の書誌情報を LyX に引用して文書を完成させる。

lyx_bibtex.png

厳密には、こうして Zotero を利用して集めた文献情報は不正確であったり誤植を含んでいたりする場合も往々にしてあるので、実際論文を作成する場合には、エクスポートされた BibTeX データベースは手直しする必要も出てくるだろう。しかし、手作業ではじめから書誌情報を入力するよりは遥かに手間がかからない。今後こうした Web ブラウザとエディタの連携はどんどん進んでいくように思う。例えば、大学の図書館で借りた本のリストから書誌情報をローカルマシンにエクスポートして作成中の草稿に直接引用する、といったことが卒論作成者などの常套手段となるかもしれない。

# 一応上で使用したテストファイル lyx-indo.tar.gz を置いておきます。

関連記事

Footnotes:

1 以前の記事 インド学仏教学における UTF-8 による TeX 文書作成 では inputenc の “utf8x” オプションを利用する方法を紹介していた。この場合はサンスクリット語の転写文字なども予め定義されており、今回のように改めて定義ファイルを input する必要はない。この “utf8x” オプションは、うまくコンパイルが通っている限りそのまま使用しても問題ないと思うが、ただ、inputenc パッケージのドキュメントでは、「”utf8″ オプションを使用しておき、欠けているものを DeclareUnicodeCharacter で定義する」という方法の方が推奨されているようである (cf. inputenc.pdf, v1.1d, p. 3)。

2 Windows 環境の場合 UTF82TeX も (Cygwin など UNIX 準拠ではなく) Windows 用にインストールする必要があるかもしれません。この辺りは実際に試していないので分かりません。すみません。

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