辞書.app を活用する (3)

前回の記事 で EPWING (JISX4081) 形式から Apple の辞書.app のフォーマットへ変換できるか試してみた。幸いにしてうまく変換できたようだったが、Windows・Linux・Mac OS X と OS を渡り歩かねばならず、少し手順がややこしい上に、辞書ごとに特有の記述法もあるので、すべてのケースでうまくいくとは限らないだろう (PDIC for Win32 で EPWING/EB から PDIC 形式に変換し、動作が確認された CD-ROM 一覧 が報告されている。ただし当然ながら完全動作は保証されない)。

前回例とした ゴンダのサンスクリット語文法書 には作成者の方が用意してくださった 外字定義ファイル が同梱されており、比較的スムーズに作業が進んだ。もしこのファイルがなければ、EPWING から PDIC 形式に変換した段階で、EPWING で外字として表示されていた文字は無視されてしまい、その文字を含む検索語の見出しや内容の表示も検索そのものもできない。JIS 規格の文字コード (JIS X 0208) のみを使用している辞書であればそれでも問題ないが、フランス語やドイツ語などアクセント付きの文字が多用される言語では実際的な使用には耐えない。とりわけ、サンスクリット語学習者にはよく理解できると思うが、それがローマナイズされたときの文字 (ā, ī, ū など) が軒並み表示されないと致命的であろう。

さて、今回もテストとして個人的によく利用する辞書の変換を試みた。対象とした辞書は『岩波仏教辞典第二版CD-ROM版』(ISBN4-00-130149-0 C0815) である。この辞書は、国内のインド学仏教学・中国哲学・国文学者の知識が詰まったコンパクトでありながら内容の濃い辞書だが、東洋学を專門としない人々にとっても有益なツールであろう。対応 OS が Windows Vista, XP, 2000pro, Me となっており、CD-ROM は所有しているが OS に対応しておらず実際には使用できない、という方は 岩波仏教辞典第二版 Toolkit 1.01 (buktk101.zip) を利用して EPWING 形式に変換することができる。それによって Windows のみならず Linux や Mac OS X 上でも使用可能であろう (Unix では このあたり, OS X 上での利用は以前の記事 こちら を参照)。今回はこのようにして EPWING 形式へ変換した辞書をさらに Apple の辞書.app 形式へと変換したのであった。幸いにしてこの辞書にも外字定義ファイルが同梱されている (BUKKYO2.map)。ただ感謝するのみである。このファイルの先頭に “# generated by cnvgmap.pl” とあるので、Perl のスクリプトで一括変換されたものであろうか。Google で検索してみたが詳しいことが分からなかった。

変換手順は、対象とする辞書が異なる以外は 前回 とまったく同じなのでここでは繰り返さない。今回は変換済み辞書の動作確認のみにとどめ、とりわけ JIS X 208 以外の文字がうまく表示されているかの確認としていくつかスクリーンショットを撮っておいた。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-onmanipadomeiun.png

「唵麼抳鉢訥銘吽」の「唵」(JISX0212, U+5535) や「抳」(JISX0212, U+62B3)

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-konjin3.png

「惛沈」の「惛」(JISX0212, U+60DB)

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-kyoman2.png

「憍慢」の「憍」(JISX0212, U+618D)

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-kendo2.png

「犍度」の「犍」(JISX0212, U+728D)

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-sankie2.png

言わずと知れた「三帰依文」のパーリ文 “Buddhaṃ saraṇaṃ gacchāmi, Dhammaṃ saraṇaṃ gacchāmi, Saṃghaṃ saraṇaṃ gacchāmi” の ‘ṃ’ ‘ṇ’ ‘ā’ など (Latin Extended-A, Latin Extended Additional) も EPWING では外字で表示される。

*ただし欠点もあって、EPWING のように「惛沈」を「こんじん」とひらがなでは調べられない。この方法で変換した場合、検索できる単語は見出し語にある表記のみである。また、(変換過程に含まれないので当然だが) 画像や音声などにも対応していない。

まとめ

さて、いくつかの記事で Apple の「辞書.app」を活用する方法を書いてきたが、おかげでずいぶんと辞書の数が増えた。こちらの記事 で紹介した EPWING 形式の辞書が検索できる辞書アプリの他にも、OS X で動作する辞書関連のアプリケーションは他にも存在する中で、この辞書.app を使う利点はなんであろうか。まずは OS X 標準アプリケーションなので (OS を購入すれば) 無料で使用可能であるし、Mac らしい綺麗な外観も特徴である。そして、上の画像に見られるように文字コードが UTF-8 標準なので将来性がある (その意味で EPWING は膨大な過去の遺産を利用出来るというメリットがあっても、新しい辞書がこの形式で増えていく、という見込みは薄い)。また、他の OS X のアプリケーションとの親和性に優れているという点も挙げられるだろうが、中でも「Control + Command + D」でポップアップ検索ができる点は私自身がこの辞書を使用し始めるきっかけであった。さらに、ある検索語のコンテンツの中で、任意の単語の場所にカーソルを合わせ、その単語が他の辞書の中に見つかれば、その単語にジャンプすることができる。

分かりにくいので例を取ると、先の『岩波仏教辞典』で「惛沈」という単語の説明にあるサンスクリット原語 “styāna” の意味が知りたかったとする (もちろん意味は「惛沈」だが… )。”styāna” が他の辞書で見つかれば、”styāna” の上にカーソルをあわせるとその見つかった辞書 (この場合 Monier Williams Sanskrit-English Dictionary, MW) へジャンプする。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-konjin21.png

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-styana2.png

さらに “styāna” の説明の中の “coagulate” の意味が分からなければ、その上にカーソルを合わせ “coagulate” の意味が含まれる英和辞典に飛ぶ。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-coagulate2.png

“coagulate” の説明の「凝固」の意味が分からなければその上にカーソルを合わせ「凝固」の意味が含まれる『大辞泉』に飛ぶ。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-gyoko2.png

このように素早く、ある辞書の検索語のコンテンツから別の辞書の見出し語へ、そのコンテンツからさらに別の辞書の見出し語へ、といった調べ方ができる。辞書間の串刺し検索ができるアプリは他にもあるが、このようにコンテンツ内で、自動的に「他の辞書への」リンク先を探し出してジャンプできる、という機能が利用できる点もこの辞書.app を使用する利点であろう。

また、EPWING 辞書で単語の意味を調べて (「惛沈」)、その単語の説明内の分からない単語 (“styāna”) の意味を「Control + Command + D」でポップアップ表示させるといった使い方もでき、使用範囲は広がりそうだ。

https://skalldan.files.wordpress.com/2011/06/wpid-emacs_konjin1.png

*図は Carbon Emacs から単語の意味をポップアップさせている様子。Emacs の Lookup で「惛沈」や "styāna" などの Unicode 文字を含んだ語を表示させる方法は こちら を参照。

4 thoughts on “辞書.app を活用する (3)

  1. いつも貴重な辞書の話を楽しく読ませていただいております。
    ひとつ伺いたいのですが、stardictからepwingへの変換について何かよい方法はないでしょうか。
    Amrta様のお考えを伺いたいのです。よろしくお願いいたします。

    • コメントありがとうございます。

      StarDict Editor を使用すれば、ひとまず text 形式に変換できますので、辞書の種類にもよるかもしれませんが、あとは PDIC 形式などに変換して、EBStudio で EPWING、という手順が可能なように思います。

      http://code.google.com/p/stardictproject/

      少し趣旨とは外れてしまいますが、StarDict と EPWING の辞書を同時に検索したいという事であれば、Fastasdic という両者の辞書が同時に検索できる辞書ソフトもあるようです。

      http://projects.gnome.org/fantasdic/

      • ご返事及びご教示、ありがとうございました。windowsだけではなく、アンドロイドやIOSでもstardict形式の辞書をEPWINGと一緒に串刺しで利用したいもので、あれこれと変換方法を模索中です。まったくの素人ですので、試行錯誤を重ねても、まだ何もできずにいる私です。もう一つわがままなお願いですが、お時間のある際に、stardictをtxtに変換した後、どういう風に整形すればPDIC一行形式にできるかをご検討・教示いただけませんでしょうか。重ねて御礼を申し上げます。

      • StarDict Editor を使用して生成されたファイルについて、以下の二つを一括置換すれば PDIC 一行形式になると思います。

        – タブを「///」に置換 (見出しと訳語の区切り)
        – 「\n」を「\」に置換 (改行)

        「英辞郎」「StarDict」などのキーワードで検索すれば、英辞郎 → PDIC 一行形式 → StarDict 形式への変換の記事が Web 上にたくさん見つかると思います。それと反対のことを行えば今の目的に適うので、ご参考になるかもしれません。

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